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大塚久雄『共同体の基礎理論』(岩波現代文庫)

 

共同体の基礎理論 (岩波現代文庫―学術)

共同体の基礎理論 (岩波現代文庫―学術)

 

  資本主義が世界を席巻する以前、それぞれの社会は何らかの形での「共同体」をなしていた。その共同体がどのように史的に発展したかを、経済史の基本的な理論として提示している本である。

 共同体の基盤は土地である。土地は生活手段・生産手段・生活資料・労働の主体としての人間を包含するものであり、人間は土地において土地から得た道具を用いて労働を投下することによって生産を行うのである。

 共同体は、アジア的形態→古典古代的形態→ゲルマン的形態の順に発展してきた。(1)アジア的形態においては、血縁集団(部族共同体)が土地を共同占有し、私的所有はわずかにとどまり、富の生産は主に共同占守のもとにおかれていた。(2)古典古代的形態においては、戦士ギルドとしての都市共同体が血縁的な規制力を弛緩させ、私的所有も拡大し、手工業者たちが共同体内部で分業するようになった。家父長の権限が強く、共同体は新たな共有地を求めて拡大を続けた。(3)ゲルマン的形態においては、氏族ではなく村落が隣人的共同体を作り、共同地もまた持分的に私的に所有されていき、人々には等しい耕区が平等に与えられるようになっていった。

 本書は共同体の史的発展に関するものであるが、このような発展のもとにあるのは、自然=土地が、人間にとって有り余る状態から互いに奪い合う状態へと変遷していった事実であろう。それとともに、手工業の発展も重要だと思う。人間が自らの近辺だけに配慮していれば十分だった時代には、単に血縁的に小規模につながっていればよかった。そこには富をめぐる争いはなく、それゆえ財は共有でよかったのだ。ところが、様々な道具の開発や、土地をめぐる争いなどが生じてくると、人間は自分の保持する土地や財を奪われないように確保しておかなければならなくなった。それに、自然をどんどん開発していくことができるようにもなった。人間は身辺だけでは満足できなくなり、それと同時に自己の財産を守らなければならなくなった。そんな事情が背景にあるのではないか。