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土志田征一『レーガノミックス』(中公新書)

 

レーガノミックス―供給経済学の実験 (中公新書 (820))

レーガノミックス―供給経済学の実験 (中公新書 (820))

 

  レーガンはアメリカの独立気質を体現していた。「強いアメリカ」「個人の自主性・努力」「小さな政府」という保守的なマインドを持っていた。だが、大恐慌後のニューディール政策は、自由放任から介入へと政策の舳先を変えたリベラルなものだった。そして、ニューディールを裏付けるケインズ経済学によって、ケネディ政権下では「ニューエコノミックス」政策がとられた。その後、ニクソン政権下では、失業・インフレ・国際収支赤字のトリレンマが生じた。彼の行った「新経済政策」もまたケインズの流れを汲むものであった。だが、70年代アメリカでは低成長+インフレというスタグフレーションが生じ、ケインズ主義への批判が高まってくる。

 その批判のもと成立したのが「マネタリズム」である。自由主義、物価の動きは通貨の動きと連動する、通貨量管理を最重点とする、そういう立場である。マネタリズムは裁量的財政金融政策の効果を否定する。財政支出をすると将来の増税が合理的に期待されるので人々は消費を伸ばさないと考えるのである。そのようにしてサプライサイド経済学は生まれてくる。

 レーガンサプライサイド経済学の側から「経済再生計画」を打ち出す。それは、政府支出の伸びの大幅抑制・大幅減税・政府規制の緩和・安定的な金融政策の四本の柱から成り立っている。これによって、労働意欲が高まり、貯蓄率が高まり、投資が拡大し、企業活動が活発化し、政府の仕事を民間にまわすことで民間が活性化し減税につながり、労働生産性が高まり経済成長する、レーガンはそう考えた。だが福祉切り捨てではないかなどとの批判も寄せられた。

 結果としては、インフレ・高金利は克服され、失業率が下がり、高成長がもたらされた。だが財政赤字貿易赤字がもたらされ、社会の不平等が増してしまった。その評価は経済学的な立場から様々になされるであろう。

 本書はレーガノミックスについて、その理論と歴史の大略を書いたものである。ケインズ理論に基づく先行する実践の結果は理論通りにはいかなかった。そこで、ケインズ理論を批判する新たな理論が生まれ、それをレーガンが実行したわけだが、それも結局は理論通りにはいかなかったし、そもそも欠点もはらんでいた。経済学がいかに実践において試される学問であるかが如実に分かって楽しかった。