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庄司克宏『欧州連合』(岩波新書)

 

欧州連合―統治の論理とゆくえ (岩波新書)

欧州連合―統治の論理とゆくえ (岩波新書)

 

  EUは超国家的統治体であり、複数の国家が主権の一部を譲渡して共同行使する国際組織である。本書は主に、EUがどのような法的仕組みで成り立っているのかについて概説している。

 EUは域内国境管理を廃止し、他の加盟国への旅行・移住が自由になった。また労働者の権利が厚く保護され、男女平等、正規非正規の格差是正が行われた。さらに域内市場での競争により消費者に恩恵が付与され、EU全域でモノ・サービスが自由移動されるようになった。さらにはEU全体の安全保障など、加盟国国民に与えた恩恵は大きい。

 EUはEU条約(共通外交・安全保障政策、警察・刑事司法協力)とEC条約(域内市場、ユーロ)により成立しており、コミッション、理事会、欧州議会、欧州司法裁判所等によって構成されている。EU法は直接効果と国内法に対する優越性を有する。

 EUの拡大は政治的にも経済的にも望ましいが、経済格差や文化的多様性が存在することや、民主主義・法の支配・人権というグッドガバナンスをクリアしない国などもあり、それほど容易に拡大できるものでもない。

 EUは世界の中でも大きな地位を占め、グローバルスタンダードを形成しようと働きかけている。国際刑事裁判所の設置、京都議定書死刑廃止、食品安全に関わる予防原則などを、世界各国に働きかけてもいる。

 また安全保障についても政策を施しており、NATOと協力しながら世界中の安全のために軍事的・非軍事的な貢献もなしている。

 本書は、EUとはそもそも何であるか、それがどのように組織されていて何を行うのか、そしてEUが物事を行う上で何を乗り越えようとしているのか、ということをまとめた良書である。叙述の仕方は法律書を思わせるし、実際EUを動かしているのは無数の国際法なのであろう。判例なども載っていて、実際にEUでどのような法的問題が発生しているかもわかる。平和の樹立という政治的繁栄、域内市場の樹立という経済的繁栄、そしてそれをまもる安全保障、EUは国家のまとまりであるが、国家と同じような多面的な役割を果しているし、構成国との調整を工夫している。EUが優れた法技術によって成立していることがよく分かる。