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鈴木範久『内村鑑三』(岩波新書)

 

内村鑑三 (岩波新書 黄版 287)

内村鑑三 (岩波新書 黄版 287)

 

  伝記の役割としては、(1)それ自体が波乱に満ちた劇として読むに耐えること、(2)その人物の業績(著作など)の背景や文脈を補完すること、(3)一人の人間から見た歴史であること、が挙げられると思う。

 本書は、題材を内村に取っている点で、非常に劇的な読み物を作り出すことに成功している。内村が何をしたとかそういう事実よりも、内村の人生が波乱万丈なので読み物としての筋が面白いのである。だが、やや批評性に乏しく、内村の業績を補完するのに著者独特の観点が余り込められておらず、補完性という意味ではやや劣ると思われる。だが、内村から見た時代性というものは鮮やかに描かれていて、これは内村が時代に敏感だったことも関係しているが、決して閉ざされた個人史ではなく、開かれた一個の独自の観点からの大きな歴史として成立している。

 総じて、伝記として面白かった。特に、二つのJ(Japan,Jesus)に人生を捧げるというのは内村の人生の要でありテーマであり、そこを中心に繰り広げられていく叙述は整然としていて良かった。