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諸富祥彦『フランクル』(講談社選書メチエ)

 

知の教科書 フランクル (講談社選書メチエ)

知の教科書 フランクル (講談社選書メチエ)

 

  アウシュヴィッツの生還者として『夜と霧』を書いたことで有名なフランクルだが、心理療法家としても多くの著作を残し、多くの影響力を持っていた。

 フランクルは人間を「苦悩する存在」(ホモ・パティエンス)ととらえ、苦悩を肯定的にとらえた。苦悩は業績であり、また能力であり、人間の成長をもたらす。とはいっても、決して人間はマゾヒズムに陥ってはならない。苦悩が自己目的的になってはならない。何かのため、誰かのために苦悩するのでなければならない。苦悩はそれを超越したものを志向する必要がある。他の存在者の「もとにある」「バイ―ザイン」という志向性が重要なのだ。

 人は実存的空虚に支配されることがある。そのとき人に必要なのは孤独になる勇気である。すると見えてくるのは、幸福の追求が空虚を生んでいるということである。幸福は追求するほどその人を幸福から遠ざけるという「幸福のパラドックス」を孕んでいる。

 人間が人生の意味は何かと問う前に、人生の方が人間に問いを発してきている。私たちがなすべきこと(意味・使命)は、「私を越えた向こう」から既に与えられていて、私たちは状況からの問いに対して責任をもって正しく応答する必要があるのだ。

 フランクルのロゴセラピーは、意味志向心理療法であり、内省の徹底よりも「自分にとって不可欠な、固有の意味を帯びた問題」に真摯に答えていき、自分の「天職」を見つけることを要求する。

 フランクルのロゴセラピーは、私たちに発想の転換を促すものだと思う。「気の持ちよう」についての一つの理論であり、人間を前向きに転換させる力のある理論である。自分を越えた「人生の問い」があらかじめ存在して、それに対して未来に向かって応答していくという姿勢は、なんとヒロイックかつストイックなものであろうか。虚しさなど感じている暇はない。人生は意味にあふれている。大事にしたい思想である。