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伊東光晴『ガルブレイス』(岩波新書)

 

  ガルブレイスプラグマティズムに依拠して現代資本主義を分析し続けた経済学者である。

(1)市場を調整するメカニズムは競争と拮抗力である。市場は競争だけで決まるものではなく、労働者や消費者からの圧力によっても決定する。

(2)経済二分法。大規模法人企業と小規模個人企業では成立する経済原理が違う。大企業では、経営の支配権はテクノストラクチュア(経営者の下の各種組織の専門知識を持つ集団)に握られている。だから、経営トップは能力以上の高額な所得を得て腐敗する。

(3)ゆたかな社会では、必需度の高いものの消費が減り、必需度の低いものの消費が増える。それをあおるのが広告である。またゆたかな社会では公共サービス資金が回らない。政府の政策には企業や労働者が参加してコスト上昇による物価上昇という悪循環を断ち切るべきである。

(4)農業、個人企業、サービス業へのまなざし。これらの分野の経済状態の悪化を防ぐためには、自己搾取(度の過ぎた自己努力)をなくさねばならない。最低賃金制の導入、数量制限、教育の地域間格差の解消などが望ましい。

 ガルブレイスの経済学は、普段我々が接しているケインズまでの経済学の先へと向かうものである。我々はガルブレイスを学ぶことによって、より現代的な経済問題を把握することができ、現代の経済を考えるきっかけをつかむことができる。このように、絶えず現実を把握することをやめなかった経済学者の足跡は貴重である。