社会に常々発生している抗争を根本から考えている本。人間は他者からの承認を求める虚栄心に駆り立てられる欲望の主体であり、そこから抗争や排除が生じる。人間の現実存在は基礎的に書字的(線を引くもの)であり、その書字的暴力から文字も貨幣も生まれた。
共同体というものは常に他の共同体から自らを差異化しようとしており、そのために戦争が起こる。
統治機構の成立により人間が平等になったとしても、必ずしも人間は幸福にはならず、倦怠に襲われて再び抗争を繰り返すかもしれない。人間は平等への欲求と差別化の欲求に常に突き動かされるからである。そんな中、肩書などの世俗的生存様式に自足せず、その世俗性に基づく差別と抑圧と暴力を超越する「覚醒倫理」が要求されるだろう。
本書は人間社会の避けることのできない抗争や暴力について、その根源から解き明かした書物であり、様々な含蓄を含んでいる。「覚醒倫理」なる解決策はいささか理想的過ぎるかもしれないが、自分たちが日ごろいかに世俗的な物事に汲々として無駄な心労を費やしているかを考えると、何か倫理的な転回が必要なのではないかとも思えてくる。