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加藤周一『抵抗の文学』(岩波新書)

 

抵抗の文学 (岩波新書 青版 58)

抵抗の文学 (岩波新書 青版 58)

 

 戦時のレジスタンス文学がそれまでのフランス文学に新たな境地を生み出したとする評論。加藤周一の初期の代表作。 

 第二次世界大戦以前、フランスの文学は象徴主義と超現実主義で行き詰っていた。ロマン派以来の自我中心主義が知的・感覚的に追求されることで内面に閉じこもってしまった。

 だが、ナチス占領下の抵抗の文学によって、国民意識や大衆の生活意識、激動する現実を直視する動き、人生を取り戻す動き、象徴主義に時代性を与える動きなどを表現し、フランス文学が途絶えないことを証明した。抵抗はフランス文学の閉塞を打ち破ったのである。

 本書に現れる詩人たちはすべてがそれほど有名なわけではないが、それぞれに文学的に意義深い仕事を成し遂げ、フランス文学に足跡を残したようである。もちろん、加藤はこのフランスの運動の中に何か日本に通じるものを見出そうとしていたのだろう。あるいは、日本の戦時下の文学について考える端緒を探していたのかもしれない。いずれにせよ、論旨が明確で楽しめる評論だった。