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乗松亨平『ロシアあるいは対立の亡霊』(講談社選書メチエ)

 

  ロシアはかつて「第二世界」であった。そのとき、ロシアのアイデンティティは「私はXにとって他者である」というものだった。冷戦後、ロシアが第二世界でなくなっても第二世界の亡霊は生き続け、ロシア思想では繰り返しこの主題が変奏された。

 例えば、「私は私にとって他者である」として「私」を内部分裂させるとか、「私」と「X」の「あいだ」を新たな対抗原理にするなど、対立の物語をさらに終わらせるために、対立を消尽すべく変奏し続ける思考の物語があった。

 本書はロシアのポストモダン思想について、その第二世界としての来歴をいつまでも引きずったものとして紹介している。ロシアは結局「~ではない」という消極的な自己規定にとらわれてしまった。冷戦の残滓はいまだにロシア思想に根強く残っていることが分かる。