社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

長谷川三千子『神やぶれたまはず』(中公文庫)

 

  日本人にとって敗戦とは何であったかについて、文学作品などを手引きに論じている評論。

 敗戦は、日本人にとって何か絶対的な瞬間であり、それは天籟の音が鳴り響くような瞬間だった。日本人の多くは戦争によって死ぬ覚悟だったが、玉音放送は日本人に「生きよ」、と呼びかけた。それは、自らの死を天皇という神に与えることで、そこに一種の宗教を完結させようとする日本人をみな裏切る行為だったのだ。戦争は日本人が神に殉じることのできる唯一の時空間だった。敗戦において日本人は神に裏切られたのだった。

 本書は第二次世界大戦終結時における日本人の精神史であり、そこで一体どのようなドラマが起こったのかを精緻に解き明かしたテクストである。大変優れた論考なので、いろんな方にお薦めしたい。