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長谷川三千子『からごころ』(中公文庫)

 

  長谷川三千子のデビュー評論集。

 日本人が中国語を仮名として日本語に取り込んだときの「無視」の構造について論じた「からごころ」、西欧的な「物」「主体」とは異なった物体観や心理を谷崎「細雪」に見出す「やまとごころと『細雪』」、敗戦後きれいに隠蔽された戦争時に日本人が抱いていた「敵」という機構について論じた「『黒い雨』」、「国際社会」という言葉の意味を遡ってその狭さを指摘した「「国際社会」の国際化のために」が収録されている。

 総じて、日本或いは日本人の問題について、隠されたり見落とされたりしている本質について論及している刺激的な論考である。著者は哲学の教授であるため、叙述が論理的で明晰であり、日本の文芸評論にありがちな意味不明がほぼ見られない。おすすめの評論家である。