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楠木新『左遷論』(中公新書)

 

左遷論 - 組織の論理、個人の心理 (中公新書)

左遷論 - 組織の論理、個人の心理 (中公新書)

 

  左遷と呼ばれる現象を通じて日本型組織の論理に迫る本。

 サラリーマンは人事に非常に興味を持っている。特に自分が低い地位へと移される左遷は屈辱的なものである。しかし、人事担当者側からすれば、人事異動における裁量はそれほど大きなものではなく、空いているポストに人を当てはめていくだけだから左遷という意識はない。だが、サラリーマンはたいてい自分のことを三割高く評価しているので、人事担当者の評価と自己評価がかみ合わず、左遷でない異動を左遷ととらえるという現象が起こってくる。但し、現代ではハラスメント加害者等を意図的に左遷される事例も出てきてはいる。

 左遷は人生の転機となることが多い。左遷によって改めて自らの人生を見つめなおし、そこから人生の道筋を変える人も少なくない。左遷をきっかけに転職したり資格を取ったりする人は多い。そこでそれまでの狭い視野から解放されるのである。左遷は人生を見つめなおすチャンスでもある。

 本書は人事担当者の視点から左遷について語ったものであり、学者の書いた科学的な本というよりはビジネス書に近い。それでも組織運営の内幕や日本型雇用の特異性などが分かり非常に面白かった。いちサラリーマンとして、左遷されたときの心構えにもなったように思う。