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小川仁志『哲学の最新キーワードを読む』(講談社現代新書)

 

  本書は近年盛んに議論されている12の哲学上のテーマを4領域に分けて簡単に解説している。

(1)感情の知

 ①ポピュリズム 反知性主義ポスト真実(客観的な事実よりも感情的な訴えかけの方が世論形成に大きく影響する状況)により、反多様主義的なリーダーが生まれてしまうこと。

 ②再魔術化 ポスト近代において理性の力が弱まり、人々のよりどころとしてイスラム教などの宗教が活発化すること。

 ③アート・パワー 本来アートは政治的な存在であり、アートの持つ人を動かす力により時代の閉塞状況を打開しようとすること。

(2)モノの知

 ①思弁的実在論 相関主義(物事が人間との相関的な関係のみによって存在するという考え)を徹底すると人間に思考不可能な部分は人間が知り得ず、それゆえ偶然的な出来事が必然的に生じるようになるという考え。

 ②OOO(トリプルオー) あらゆるモノはひきこもっており、相互に関係することはないとする考え。

 ③新しい唯物論 心や精神の根底には物質があるが、心はその物質を把握するにとどまるのではなく、より積極的に物質に関わり、それを救済さえするという考え。

(3)テクノロジーの知

 ①ポスト・シンギュラリティ 近い将来、AIが意識を備え人間を超越する存在となってしまうこと。

 ②フィルターバブル インターネットは我々をつながりすぎた状態に置くと同時に、狭い世界に閉じ込める。もはや我々はインターネットの中に生きている。

 ③超監視社会 我々はアマゾンやフェイスブックなどを利用しながら、逆に自らのプライバシーをそれらの会社に握られてしまっている。サービスを利用することで却って自分が監視されてしまうこと。

(4)共同性の知

 ①ニュー・プラグマティズム アメリカ発の行き詰まりを突破するための思想。物事の真偽や正義は実践によって決定される。

 ②シェアリング・エコノミー 資本主義でも共産主義でもない、ネットワーク型の新しい共生の姿。共有を核としながら中央集権化を忌避する。

 ③効果的な利他主義 私たちは自分にできる「いちばんたくさんのいいこと」をしなければならないという考え。必ずしも公共的な仕事をしなくても、とにかくお金を稼ぎそれを公共部門に寄付するというのもあり。

 本書は現代社会を思想面から照射するものであり、現代社会の抱えている問題が哲学にも否応なく反映されていることを如実に示している。著者は飽くまで公共哲学にすべてを結び付けようとしているが、その試みはむしろ無理があったと言っていい。それでも記述は飽くまで平易でありながら本質を突いており、新書レベルの入門書としては優れているのではないか。もちろん、本書で紹介されている書籍はすべて原典に当たらねばなるまい。