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末近浩太『イスラーム主義』(岩波新書)

 

イスラーム主義――もう一つの近代を構想する (岩波新書)

イスラーム主義――もう一つの近代を構想する (岩波新書)

 

  イスラーム主義の歴史的ダイナミズムを描いた好著。

 かつてオスマン帝国では政治と宗教が不可分だった。オスマン帝国の崩壊によって、ムスリムたちは政治と宗教の関係について模索するようになった。

 一方では西洋近代の民主主義などを標榜する世俗主義があり、他方ではイスラーム的価値の実現を求めるイスラーム主義がある。帝国の崩壊後、世俗主義独裁政権によりイスラーム主義は抑圧された。イスラーム主義はアラブの春などにより政権を奪回するも、再び世俗主義に政権を奪取される。

 イスラームはもともとムスリム個人の内面の信仰の深化を重視し、それがいずれ社会を良きものとするという漸進的な考えが主流であった。また宗派間の争いを好まず、ジハードをそれほど重視しない。イスラーム国などの過激派はジハード主義と呼ばれ、イスラームの中でも異端に過ぎない。

 本書を読むとイスラーム主義とはどういうもので、それが世界の中で抑圧にさらされながらどういうものを生み出していったか、そのダイナミズムが分かる。イスラームはそもそもテロリズムとは遠い信仰であって、一部のジハード主義者によりイスラーム全体のイメージが悪化しているのは悲劇的である。イスラームが世界においてむしろ抑圧されている被害者であるからこそなおさらである。大変勉強になった。