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阿部謹也『「教養」とは何か』(講談社現代新書)

 

「教養」とは何か (講談社現代新書)

「教養」とは何か (講談社現代新書)

 

  中世ヨーロッパ、魏の時代の中国、アイスランドサーガなど、様々な歴史的文化的状況をもとに、世間と教養について思考している本。

 日本人のプライベートな領域は「世間」の規則に則って、常識によって運営されている。建前上は西欧近代風のことが要求されてはいるが、日常生活を送るうえでは相変わらず世間の中で生きなければいけない。

 フンボルト的な純粋な学問による「教養」の理念は、ドイツの大学で主に発展していったが、エリート主義で富裕層の味方でしかなかった。だがドイツにおいては18~19世紀にかけて教養市民層が現れる。

 いずれにせよ、我々の生活世界は世間の原理で成り立っている。教養があるということは、世間の中で世間を変えてゆく位置に立ち、何らかの制度や権威によることなく、自らの生き方を通じて周囲の人に自然に働きかけてゆくことができることを言う。

 本書は豊富な歴史的具体例に基づいて世間と教養について考えている説得的な本であり、教養の位置づけも明確に書かれている。教養を持つ人間はそれとなく社会を少しずつ変えることのできる人である。その勇気を持つことが大事だと思う。