主に宗教的思想の自由についての歴史について詳説した本。
古代ギリシア・ローマの時代には、自由な理性による活発な議論がなされ学問が進歩し、思想の自由が抑圧されることはまれであった。だがキリスト教が覇権を握るようになると、キリスト教の一神教としての原理主義が異端や異教を排斥するようになった。中世時代には思想の自由は強度に抑圧され、人々は自由な思想活動を行えなかった。
ルネサンスのヒューマニズムと宗教改革による権威の動揺は、中世的幽閉からの解放へと向かう準備となった。ロックやヴォルテールらによる寛容論が著され、理論的に宗教的寛容が論じられるようになった。17世紀以降になると、地動説などの自然科学の発展や聖書の合理的解釈などによって、合理論によるキリスト教批判が活発になる。また、ヘーゲルの世界精神論やコントの実証主義など体系立った合理的世界観がキリスト教への強力な批判となった。
思想の自由は、ミルが論じたように、議論を活発化させ諸学の発展を生むという功利的効果を持つ。その観点からも、キリスト教による思想への抑圧は社会的な利益を害するものであった。
本書は、初めは迫害される側にあったキリスト教が逆に迫害する側に回ってからの思想の暗黒の歴史を書き綴っている。キリスト教はおおむね異端や異教に厳しく、原理主義的な立場を取り続けてきた。それが社会的な不利益を生んでいたことを糾弾する書物である。現代の思想・良心の自由がいかに過酷な戦いを経て獲得されたものかが良くわかる。