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藤野寛『「承認」の哲学』(青土社)

 

  アクセル・ホネットの承認論の解説といったところ。

 自己の欲求の実現をはかるとき、その欲求は社会的に他者の影響を受けざるを得ないため、自己実現は純粋な自己の実現ではない。自分自身の欲求と肯定的に向き合うためには他者からの承認が必要なのである。

 社会生活とは、コミュニケーションとは承認をめぐる闘いである。承認には3種類ある。①愛、②人権尊重、③業績評価である。愛とは究極のえこひいきである。人権尊重とは、人々の差異にもかかわらず等しく尊重することである。業績評価とはえこひいきしてはいけないが基準に基づき差をつけねばならない。

 社会から承認を求めるとき、我々はどうしても支配的価値観におもねることになりがちである。だが、我々は支配的価値観を軽蔑しながら生きてもいる。より高度の自律性を人に可能にする承認こそ適切な承認である。

 本書は最近SNSなどでよく問題とされる「承認」を哲学的に取り扱った、ホネットの議論を丁寧に解説したものである。差異あるものを差異あるものとして肯定的に承認していくという基本的な立場は、多様性を増していく現代社会に必須のものであろう。また、コミュニケーションを単なる和解の装置ととらえるのではなく、そこには絶えざる承認をめぐる闘争があるのだと考えるのは現実的である。とにかく、「承認」をめぐる議論を一通り読むことができるのでお薦めの本である。