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矢内原忠雄『日本精神と平和国家』(岩波新書)

 

日本精神と平和国家 (岩波新書 赤版 100)

日本精神と平和国家 (岩波新書 赤版 100)

 

  終戦後の矢内原の伝道活動としての講演を二本収録している。

本居宣長の系譜を継ぐ日本主義者は、神の世界を正邪善悪混合する人間社会のようなものととらえ、神を人格的な絶対者として捉えない憾みがある。日本主義者は人間や社会についても現状是認的で、道徳の理想を唱えたり観念を掲げたりしない。ところが、人間の人格的完成や理想社会としての神の国を待望するのが日本をよりよくすることにつながるのである。

②平和国家の建設についても、それを損得の問題とせず、カントが唱えるように義務の問題、理念の問題としてとらえるべきである。平和国家を担う国民をつくるためには、教育によって真理を愛する個を立て、平和人をつくる必要がある。心理を愛し、神を畏れ、平和人として平和国家の理想を追求することが国際平和を導く。

 本書は矢内原忠雄の講演を二本収録しているが、どちらもとても読みやすく、また矢内原の思想を凝縮している。安易な現実肯定論ではなくあくまで理念・理想を尊ぶこと。そのことにより国の再興や平和の実現をもたらすこと。その根拠として絶対的な神へと帰依すること。神学と政治学が切り結ぶこのあたりの論点はとても面白いと思う。このような時代がかつてあったし、これからまた来るかもしれない。