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ジグムント・バウマン『コミュニティ』(ちくま学芸文庫)

 

コミュニティ (ちくま学芸文庫)

コミュニティ (ちくま学芸文庫)

 

  コミュニティについては論者によってさまざまな定義があるだろう。バウマンは、コミュニティを安全が手に入るが自由を失う共同体として考えている。逆にコミュニティから離脱すると自由が手に入るが安全を失う。安全と自由は「あれかこれか」の関係にあるのである。

 だから、ここには安全と自由の果てしない葛藤がある。現代という液状的な近代においては、エリートはグローバルに移動でき、非エリートは地域に縛られる。だが、エリートはコミュニティを必要としないし、非エリートの共同体も安全を供給しない。コミュニティを得るためには絶え間ない戦いが必要なのだ。

 本書は社会において安全と自由の両取りをすることはできない、ということを趣旨としている。だがもちろん、安全と自由については様々なグラデーションがあり、人々はそれぞれのグラデーションを生きているのである。バウマンはここにコミュニティ概念を用いて安全と自由の理念型を提示しているが、具体的な生きられたグラデーションにおける検証はなされていない。具体的なグラデーションを示すのが社会学者の次の課題であろう。