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軽部謙介『官僚たちのアベノミクス』(岩波新書)

 

  政府が何らかの政策を打ち出すと、新聞で結果だけを読んでいる我々としては、あたかも総理大臣が単独でそれを決めたような錯覚を抱く。だが、実際には我々には見えないところで黒子として動いている人たちがたくさんおり、それは主に官僚である。軽部謙介『官僚たちのアベノミクス』は、アベノミクスの決定に際して様々なアクターが複雑に絡んでいたことを示している。

 アベノミクスとは、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略という三本の矢から成るデフレ脱却のための方針である。アベノミクスを実施した結果として現在現れているのは、株価の高まり、円安の進行、名目GDPの増加、GPIFの運用、有効求人倍率の増加、失業率の低下などがある。だが、アベノミクスの効果は国民の実感を伴わず、非正規就労が増え、賃金は上がらず、貧困率は高止まり、お金の循環は企業で止まり国民まで巡らない、などの問題がある。

 アベノミクスが結局成功したのか失敗したのかはさておき、それを初めに実施するにあたって、野党だった自民党に群がる官僚たちの行動、首相の取り巻きたちによるアドバイス、金融政策をめぐる日銀との暗闘、官邸と各省庁とのやり取り、国際的藩のへの対処など、新聞には現れない水面下の動きがたくさんあったということが重要である。そして、このような水面下の動きは主に官僚たちによって担われていたのだ。

 アベノミクスに限らず、何らかの政策を断行するにあたっては様々な水面下の調整が必要であり、そこで動くのは官僚である。新聞の字面だけを読まずに、その背後にある官僚たちの活躍にも思いをはせるのが良いと思う。