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小室淑恵『プレイングマネジャー「残業ゼロ」の仕事術』(ダイヤモンド社)

プレイングマネジャー 「残業ゼロ」の仕事術

プレイングマネジャー 「残業ゼロ」の仕事術

 

  日本人は久しく働き過ぎだった。そこでは個人の健康や労働者の権利よりも企業の論理が優先される企業中心主義が支配していた。高度経済成長は企業が労働者を丸抱えすることによって実現したが、今や企業にはそこまでの力がなくなっている。労働者は主体的に自らの権利や健康を管理しなければならなくなってきているし、それと同時に企業の生産性を上げることも求められている。

 小室淑恵『プレイングマネジャー「残業ゼロ」の仕事術』(ダイヤモンド社)によると、働き方改革とは、残業ゼロを実現することによりチームの生産性を上げ、ワークとライフを共に充実させることを目的とする。かつてのように仕事に疲れてプライベートで何もできないとか、ダラダラ残業して生産性を下げるとか、そういうことをなくしていこうというのが目的である。

 そのためには、チームの「関係の質」を上げることが出発点である。チームの間に信頼関係があり、自由に発言できる「心理的安全性」を築き、コミュニケーションを活発化させることにより、生産性を上げるのである。また、重要な仕事と重要でない仕事を区別し、重要な仕事に力を注ぎ、重要でない仕事については見直しをすることによっても生産性は上がる。そのためにもチームの目的を明確化し、なんのために働いているのかをはっきりさせるのが重要である。そして、生産性の高い健全なチームは「緊急性の低い重要な業務」が多い。緊急性の高い業務に日々追われるのではなく、そういうものは優先度を上げたり担当者を増やしたりして早めに片付け、重要な業務にじっくり取り組める体制を整えることが大事である。また、この仕事はこの人にしかできないという仕事の属人化をなくし、仕事をマニュアル化することによりスキルをチームで共有し、業務分担に偏りをつくらないことが重要である。

 「過労死」を国際的な言葉としてしまったのは日本だった。日本では早くから長時間労働による健康障害が認められていたにもかかわらず、その抜本的な解決がなされず、残業することが「頑張っている」「努力している」美徳であるかのように思われている。科学的には、人間の集中力は起床時から12時間しか持たないことが証明されていて、残業は全く非効率な労働であることが証明されている。これからは「残業しない」ことが美徳であり、日本の低い労働生産性を高める望ましい行動となるだろう。今はその価値観の分岐点に来ている。