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森岡孝二『過労死は何を告発しているか』(岩波現代文庫)

 

  雇用とは原理的に契約であり、定められた職務の提供に対して定められた報酬を支払うという以上の何物でもない。契約である以上、原理的に企業と労働者は対等であり、労働者がその契約において死を望むはずがない。労働者はみずからの権利を十分行使できるように契約を結ぶはずである。

 だが、雇用の実態において企業は労働者の優位に立つ。企業は報酬を支払うことで労働者の生活を保障しているため、労働者は生活を維持するために企業の言うことを聞かなければならないのだ。この現実的な力関係に従って企業が労働者を酷使することによって、過労死や他の人権侵害が起こっている。

 森岡孝二『過労死は何を告発しているか』(岩波現代文庫)によると、近年過労死や過労自殺が増えている背景には、長時間残業などの過重労働、行き過ぎた成果主義、情報通信システムによる仕事の増大やジョブ・ストレスの増大、労働者の権利が軽視され消費者の権利が重視される企業文化、などがあるとされる。過労死に関する判例においては、企業は労働者の生命・健康に配慮する義務が認められている。過労死への対策としては、労働時間の短縮を法的に義務付けること、サービス残業の撲滅などが挙げられる。

 近年、ワークライフバランス働き方改革が支持を集めている一方で、依然としてブラック企業などが社会問題として残ったままである。また、残業時間の上限が週45時間に短縮されたのは大きな前進である。ここで我々は「雇用は契約である」という原点に立ち戻るべきではないだろうか。企業と労働者が互いの権利を尊重し合いながら対等に結ぶ契約、それこそが雇用であると、企業の側も労働者の側もきちんと意識することが大切である。そうすれば企業の側も過重な要求をしないし、労働者の側も自らの権利を行使できる。そのような風通しの良い契約関係に立ち戻るべきである。