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上村忠男『アガンベン《ホモ・サケル》の思想』(講談社選書メチエ)

 

  本書は、イタリアの哲学者であるアガンベンの思想を紹介している。フーコーの「生政治」の思想を継承したうえで、それを「ホモ・サケル」という「むき出しの生」の方向へと発展させている。アガンベンは、近代における政治の特徴は、もともとは法的・政治的共同体の欄外・余白に位置していた「むき出しの生」の空間が次第に政治の空間そのものと一致するようになり、排除と包含、外部と内部、ビオスとゾーエー、法権利と事実の間の区別が定かでない不分明地帯ーー「閾」に突入するに至った事実であると述べている。アガンベンの思想の特徴は、このように対立する二項が相互に嵌入し合い相互の区別が不分明となる「閾」を問題の集約点と考え、そこに立脚しながら思考を展開するところにある。

 アガンベンについての書物は初めて読むが、かなり思弁色の強い本のように思えた。現実がどうなっているかという問題意識よりは、現実をどう構成できるかという批評的な問題意識で「ホモ・サケル」のプロジェクトは推進されていったのだろう。ものの考え方の点では非常に参考になるが、何か新たな知識を得るような本ではない。これが政治哲学というものであろう。