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佐々木毅『アメリカの保守とリベラル』(講談社学術文庫)

 

  本書はアメリカの保守とリベラルの対立、またその対立の乗り越えについて論じた基本的文献である。小さな政府を志向し、カトリック道徳に忠実な保守と、大きな政府を志向し、弱者の救済を図るリベラル。アメリカではこの二つのイデオロギーが、政党レベルでは共和党民主党という形で対立してきた。お互い様々な観点から批判の応酬を繰り返す。リベラリズムはプラグマティックな傾向が強い現実重視のネオ・リベラリズムに発展する。また、冷戦後の新しい世界秩序に対応して、政府か市場かという対立よりも東アジアの重商主義的資本主義や西欧の社会民主主義的資本主義とアメリカは対立するようになったなどと論じられるようになった。保守かリベラルかというよりは第三の道が探られている。

 アメリカは割と政権交代が頻繁な国であり、保守とリベラルは互いに拮抗しているが、単なるイデオロギー闘争に終わるのではなく、より現実主義的で臨機応変な立場へと変化していくのが望ましいであろう。世界情勢に対応した、対立を超克した立場へと変貌していき、世界への影響力を先端的な現実認識によって取り戻してほしい。本書は保守とリベラルについての基本書的位置づけにあり、まずはこれを読んでおくというところだろうか。