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ハ・ワン『あやうく一生懸命生きるところだった』(ダイヤモンド社)

 

あやうく一生懸命生きるところだった

あやうく一生懸命生きるところだった

  • 作者:ハ・ワン
  • 発売日: 2020/01/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 自由と健康は誰しもが大事にしたいと思っている基本的な価値だと思う。人は自由に行動したいし、健康に生きていきたい。できるだけ縛られたくないし、辛い思いはしたくない。だがここに職業というものが関わってくるとどうなるか。人は世の中で生活していくにはお金を得ないといけないが、そのためには何らかの職業に就かねばならない。だとしたら、どんな職業に就くことが一番自由と健康を獲得することができるだろうか。

 ハ・ワン『あやうく一生懸命生きるところだった』(ダイヤモンド社)は、韓国でベストセラーになったエッセイであり、仕事で組織に縛られ一生懸命になるよりはフリーランスでゆっくり生きた方が豊かに生きられることを主張している。ここにあるのは、安定した職に就き不条理などに耐えながら一生懸命仕事をし、たくさんのお金を稼ぐことと、不安定ながらも自分に適した職に就き、低ストレスで少ないお金で生活することとの対比である。

 さて、人間は仕事に就いたからと言って必ずしも自由を失うわけでもないし健康を害するわけでもない。仕事にやりがいを感じている人にとっては、仕事をすることがまさにその人の自由の行使であるだろうし、仕事をすることで心身が生き生きしてくるのだろう。そのような「ワーク・エンゲイジメント」の状態は昨今推奨されているが、実際にそんなにうまくいくわけではないことは多くの社会人が知っている。不本意なノルマが課され、人間関係のストレスにさらされ、残業を強いられ、健康を失う代償として多額のお金を得る、労働をそうとらえている人は多いはずだ。

 結局はバランスの問題なのだ。仕事をしないことはかえって不健康だしお金がないから自由にも制限がある。かといって仕事をし過ぎると仕事に縛られお金を使う余裕すらなくなってしまう。その中間で「緩く」仕事をするということ。この「遊び」のある緩い仕事こそが求められていくのではないだろうか。