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村上陽一郎『ペスト大流行』(岩波新書)

 

  ペストの流行をヨーロッパ史の中に位置づけた労作。ペストは古代から存在したが、750年前後から300年ほど空白の期間がある。6世紀にヨーロッパ世界が誕生し、内陸部まで文化が及ぶに従いペストが流行したように、11世紀から13世紀にかけて十字軍の遠征によってペストを媒介するクマネズミがヨーロッパに再びもたらされペストが流行する。

 そして14世紀にはペストが世界的に流行する。ペストの病因については諸説あったが、病原菌がまだ発見されていなかったため不十分であった。それでも当時すでに隔離政策をとっている地域もあった。また、ペストの流行をユダヤ人のせいにしてユダヤ人への大規模な迫害が起こった。また鞭打ち運動といって、互いに鞭を打ち合いながら行進する運動が盛んに起こった。また、農奴解放運動もこの時期盛んになる。これらの民衆運動は、13世紀に確立された中世的体制に対する反逆であって、のちの宗教改革へとつながっていくものであった。

 ペストの流行は極めて悲惨な出来事であるが、それに呼応するように起こった民衆の運動はヨーロッパ世界の中世から近代への移行を媒介するものだというのが本書の主張である。現代世界では新型コロナウィルスが猛威を振るっているが、これに対して我々が起こす行動もまた、21世紀世界を新たな方向へと舵取りしていく、歴史を変革する行動となるのかもしれない。