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本田由紀他『「ニート」って言うな!』(光文社新書)

 

  ニートバッシングに対して反論している本。そもそもニートのとらえ方が間違っているし、ニートを社会のスケープゴートにしているし、ニートの問題を心理的なものとして社会制度などの問題をなおざりにしている、などの反論。

 「ニート」としてカウントされている人の中には、働く意欲がない「非希望型」と働きたいけどとりあえず働いていない「非求職型」がいる。ニートとして問題視される非希望型は昔からそんなに増えていない。むしろ増えているのは非求職型であり、これらの若者は進学・留学準備中、資格取得準備中、家業手伝い、療養中、趣味・娯楽、結婚準備中、介護・育児、芸術・芸能のプロを目指して準備中など様々に活動している。非希望型のニートは増えていないので、働く意欲のない人は決して増えていない。個々人の生き方の多様化が進み、様々な活動をするためとりあえず働いていない人が増えているだけなのだ(本田由紀)。

 青少年ネガティブキャンペーンは今に始まったことではなく、ニートキャンペーンの前にはパラサイト・シングル、ひきこもりへのバッシングがあった。ニートキャンペーンはこれらの憎悪のキャンペーンを利用して行われたものである。年長者は何らかの不全感を抱いている。自己の不全感を他者に投影して他者を悪者に仕立て上げることで安心するという構造がある。そして、悪者に仕立て上げた他者を「教育」の名のもとに操作することでさらに安心できる。自分が理解できない不透明で多様な存在を、ありのまま認めるのではなく何とかして排除するか教育するかしないと気が済まない。そういった心理的機構が青少年ネガティブキャンペーンの背後にはある(内藤朝雄)。

 ニートというと良いイメージを抱く人はほとんどいないはずである。ニートを軽蔑している人は多いだろう。だが実態として、ニート=働く意欲のない人ではなく、ニートは多種多様な活動をしている人を含んでいる。それよりもフリーターの増加のほうが問題であり、何らかの社会政策的な解決が求められている。また、ニートがそのように社会のスケープゴートとして消費されてしまっている現実には忸怩たる思いがある。青少年を社会にとって異質なものとして憎悪の対象とするのは端的に正義に反することであろう。ニートキャンペーンは確かに問題の多いものであった。