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クリスティーン・ポラス『シンク・シビリティ』(東洋経済新報社)

 

  私は職場の若手にしばしば機会があるときに、「やられて嫌だったことは下の人間にやらず自分のところで止める。その代わりやってもらってうれしかったことは自分も下の人間にやる」ように話すことがある。よくない伝統は受け継がない。よい伝統だけ残すということだ。

 クリスティーン・ポラス『シンク・シビリティ』(東洋経済新報社)はこの辺りの事情を扱っている。同書は組織における礼節の大切さを語る。礼節とは笑顔を保つこと、他人を尊重すること、他人の話に耳を傾けることだ。礼節のある行動は他人のモチベーションを引き出し、また他人にも伝染し、組織全体の業績を上げる。逆に無礼な行動は他人の業績を阻害し、また他人にも伝染し、組織全体の業績を下げる。礼節のある職員を評価するシステムの構築や、無礼な職員を教育し、教育しても改善がないようだったら退職してもらうシステムの構築についても書かれている。いずれにせよ、同書はこれまでに蓄積された経営学の科学的知見を総動員して書かれている。

 確かに組織において出世する人間、エリートには礼節を大切にしている人が多い。反対に無礼な人は組織において出世することが少ない。これは私の知っている範囲でも観測できる。組織は一定の結果を出すために最大限効率を上げていくものであるから、効率を下げるような無礼な職員は組織にとって邪魔でしかないし、逆に効率を上げる礼節のある職員はぜひとも組織で活躍してほしい存在である。

 そして何よりも礼節・無礼はどちらも伝染しやすいという事実が重要だ。無礼な行為を受けると自らもつい無礼な行為に導かれてしまいがちだ。そこをぐっと押しとどめて無礼な行為には感染しない努力が必要だ。逆に礼節のある行為には進んで感染していく心構えが必要だ。繰り返すが、悪い伝統は受け継がず、良い伝統だけ残していくのである。