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北野弘久『納税者の権利』(岩波新書)

 

  1981年刊行であるが今でもなお訴求力のある税制改善論。

 北野はまず、納税者の権利として、財産に不当な負担を課されず課税には民主的コントロールを及ぼすという租税民主主義ではたりず、税金の使途にまで民主的に統制すべきだと唱える。納税者の権利は、財産を脅かされないという消極的な権利だけでなく、収納された税金の使い道までをコントロールする積極的な権利も含むとするのである。

 また、北野は、税制度を考えるにあたっては応能負担原則をとるべきとする。というのも、憲法の平等主義からは、能力に応じて課税するという原則がふさわしいからである。その観点から、北野は、大企業を優遇する制度や高所得者を優遇する制度が応能負担原則に反していると糾弾する。

 本書は租税法学の根本問題を扱っているだけでなく、その細部に至るまで細かく検討し、原理原則に照らして矛盾しているものには容赦なく批判を加えていく稀有な書である。書かれたのは多少古い年代だが、納税者の権利を重視するこの視点は我々国民が大事にしなければならない視点であろう。目からうろこであった。