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橋本卓典『未来の金融』(講談社現代新書)

 

  著者はこの「捨てられる銀行」シリーズの第一巻で、金融庁が地銀に対して、形式的な尺度で融資を決めるのではなくその企業の将来性や地域密着性などを総合的に考慮して融資すべきとの指針を出したことを論じている。第二巻では、金融庁の出した指針として、地銀の手数料獲得のための金融商品販売を批判し、より顧客の利益重視の金融商品を売るようにしたことについて論じている。

 第三巻である本書では、それらの指針の背後にある哲学について論じている。過去のことや現在のことは計測しやすい。そして営業利益なども計測しやすい。だが、金融庁が重視し始めたのはそのような容易に計測できるものではなく、例えば銀行職員がどれだけワークライフバランスを実現させプライベートを重視できているかとか、その融資によってこれからその地域がどれだけ活性化されていくかとか、その金融商品によってどれだけ顧客満足度が増すかとか、そのような今までほとんど計測されてこなかったか、あるいは未来のことなので計測が困難であるか、そういう「計測できない世界」なのである。

 本書はこのシリーズの第一巻と第二巻を敷衍したものであるが、金融庁の指針の背後にある哲学をえぐりだしているのが素晴らしい。この「計測できない世界」への志向は、金融庁だけでなく今や時代のトレンドであり、その「計測できない世界」を計測しようとする技術がどんどん開発されている。これまで注目されてこなかったもの、そして未来に生じるもの、そういうものを計測することが国民の利益を増大するにあたって必須となっている。