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村上靖彦『ケアとは何か』(中公新書)

 

  ケアについて現象学的観点から語っている。ケアとは、一人で存在することができない仲間を助ける行為であり、弱さを他の人が支える行為である。ケアには二種類あり、「変化の触媒」としてのケアは切断された人間関係の修復、逆境からの脱却、行為可能性の拡張をサポートし、「連続性の触媒」としてのケアは生活と人間関係の連続性を維持する。

 ケアするためには心と体が交じり合って一体となった<からだ>とのつながりを維持することが大事であり、そのために、まなざしや声掛け、身体的接触などを用いる。また、ケアにおいては当事者の願いをかなえることが大事である。当事者の声を聞き取り、当事者の日常的な些細な願いをかなえていく。当事者の居場所を確保することが大事である。

 本書はケアというものについて現象学的に記述したものであり、なかなか読みごたえのある含蓄の深いものであった。ケアとは普段の人間関係と何ら異なるものではないのであり、ただそれが相手が弱っているときになされるという特殊性があるくらいだ。病者などを変に特別扱いするのではなく、日常的な生活や人間関係へと回復していくということ。ケアとはそういう営みだ。