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松井茂記『性犯罪者から子どもを守る』(中公新書)

 

 性犯罪者の登録・公表制度であるメーガン法の合憲性について論述。児童への性犯罪は児童の心身を著しく傷つける残忍な犯罪であるため、再犯を防止するため、前科のある人間の情報を登録したりインターネットで公開したりする法律がアメリカでは制定されていて、それをメーガン法と呼ぶ。

 メーガン法憲法上問題となり、事後法禁止条項や二重の危険禁止条項に違反しないか問題となるが、そもそも登録や公表は刑罰ではないので違反はない。また、残虐な刑罰禁止条項に違反しないか問題となるが、これもそもそも登録・公表が刑罰でない以上違反にならない。また、手続き的デュープロセス違反が問題となるが、告知や聴聞を行わなくても、性犯罪を防ぐという重大な利益がある以上、憲法違反とはならない。以上より、メーガン法憲法違反とはならない。

 本書はアメリカで導入されている性犯罪者対策法であるメーガン法について、その成り立ちと憲法的議論について細かく記述している。確かに日本でも残虐な性犯罪が起こればメーガン法制定の機運が高まるかもしれない。その際、著者の議論のようなものが展開され、メーガン法は制定されてしまうかもしれない。だが、メーガン法は犯罪者のプライバシーを著しく害し、社会復帰を困難とするため、情報にアクセスできる人間を限定するなどの配慮が必要だと感じる。いずれにせよ法律学のまっとうな議論が展開されている。