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経験は教養である

 教養を身に着けることとは読書や学問によって人格形成することだと一般にはとらえられている。だが、読書や学問だけでなく人生経験もまた教養を養うものだと私は考えている。

 読書や学問で身に着けられるものは、知識であり、ものの見方や思考様式であり、世界観や人生観である。経験によっても人はそれらを獲得できると考えられる。

 例えばある人が育児の経験をしたとしよう。その人は育児にまつわる情報収集をして知識を得、また実際に育児をすることで子どもの動きや反応などについて実際的な知識を得る。育児は知識を養う。

 また、育児をすることによって、その人は育児の大変さを実感し、世の母親を取り巻く状況に敏感になるかもしれないし、またケアの経験から人とともにあることなどについて考えを深めるかもしれない。育児は人の物の見方や思考様式を変える。

 さらに、育児をすることによって、その人は自分の人生もまたこのような膨大なケアによって成立した・しているということを実感し人生観が変わるかもしれないし、子どもを中心として成立する別の世界の存在にも気づくかもしれない。育児は人生観や世界観にも影響を及ぼす。

 以上より、人生経験も読書や学問同様教養を養い人格形成するものだと考えられる。そして、人生経験は単なる教養を超えるものである。人生経験が人に与える現実感、実際にそれをやってこういう反応が返ってきたという実感は読書や学問には希薄なものである。読み物にはないリアルな実感は強烈であり、それこそが人生経験が単なる教養を超えて人間の人格形成に影響を及ぼす点である。