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辻村みよ子『ポジティヴ・アクション』(岩波新書)

 

 ポジティヴ・アクションとは、人種や性別などに由来する事実上の格差がある場合、それを解消して実質的な平等を実現するための積極的改善措置のことである。人種・性別のほか、障害の有無、階層、言語、宗教などによる格差も是正する。例えば政治の分野では議員の男女比が日本では圧倒的に男性優位に傾いている。それでは政治の舞台で女性の声を反映することが難しいため、そのような現状を打開するために女性議員の比率を上げる措置をする。そういう措置がポジティヴ・アクションである。

 行政分野では、公務員の女性管理職の比率が低いことから、それを高める措置が考えられる。雇用分野では、女性の能力の有効発揮による経営効率化、女性管理職の増加が考えられる。学術分野では、女性研究者の比率をもっと上げる。代表的な制度としてはクオータ制があり、性別などを基準に一定の人数や比率を割り当てる手法がある。もちろん、例えば女性を優遇すればそれによって男性には逆差別が生じるのであり、憲法問題が生じるが、格差是正という利益と比較考量するとそれほど違憲の問題は生じない。

 本書はポジティヴ・アクションの包括的な入門書であり、日本の抱える問題点を指摘したうえ、諸外国の事例を参考にし、日本でどのような措置がとれるか憲法問題も考慮しながら考えている。確かに日本は男性支配の社会であり、これはいくぶん強制的にでも是正しなければいけないのかもしれない。社会を変えるためには、まずはこういうところから変えていくのが筋かもしれない。