戦後の東京の歩みを文化都市構想の挫折というテーマで描いた本。終戦直後の日本では、日本を文化の力で復興しようという動きがあった。東京への一極集中ではなく、分散的な都市ネットワークのなかに大学街や娯楽街を配置し緑と文化の首都を実現する構想があった。だがこの文化としての東京は実現しなかった。東京は速く、高く、強いオリンピックシティとなってしまったのである。一方で、東京は回帰的で循環的な成熟を迎えることができず、直線的に成長を続けることで成熟という復興を成し遂げることができなかった。
本書は東京の戦後史を丹念に追いながら、そこに都市としての成熟の問題、復興の問題を主題として絡めている。吉見は基本的に日本の歴史については悲観的な学者だと思うが、本書においてもそのペシミズムは十分発揮されている。だが、このような現状批判のほうが盲目な現状肯定よりも学ぶ点が多くすぐれていると感じる。該博な知識に裏付けられた論旨には説得力があり、相変わらず重厚で読みごたえがあった。