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金澤周作『チャリティの帝国』(岩波新書)

 

 民間の非営利的な弱者救済活動であるチャリティ。イギリスではこれが非常に発達してきた。その歴史を追っている本。チャリティには3要素がある。①困っている人に対して何かしたい、②困っている時に何かをしてもらえたらうれしい、③自分のことではなくとも困っている人が助けられている光景には心が和む。これらの3要素がどのような様相を帯びたかは時代によって異なってくる。美徳としてチャリティが行われた古代、キリスト教の貧者に対してだけチャリティが行われた中世、チャリティに娯楽性が付与された近世、戦争で困窮した人を救った戦中期など。

 日本ではチャリティがそれほど活発ではなく、せいぜいチャリティコンサートとか募金があるくらいである。だが、イギリスではチャリティの太い伝統があり、それが社会のセーフティネットとしてある程度機能してきた。チャリティは福祉レジームの一つとして、イギリスでは大きな役割を果たしたのである。ただ、チャリティは決して博愛的なものではなく、歴史的には対象者を限定したものが圧倒的に多かった。日本においてもチャリティを活発化させたほうが良いとはあまり思わないし、チャリティの経済的なメリットについて本書は触れていないので、果たしてチャリティが経済的にも合理的な制度かどうかはわからない。とりあえず、イギリスの新たな側面が見えた。