本書は漫画という形式をとりながらも社会的な事件や問題を日常的な視点から多角的に洞察している。「女子高生コンクリート詰め殺人事件」に材をとった表題作から、宗教による洗脳の問題や、家庭内暴力をふるう息子を殺す事件、それぞれについて、テンポよくわかりやすく、それでありながら深い戦慄を感じさせながら描いていく。末尾に置かれた放射能汚染に関するディストピア短編も戦慄を呼ぶ。
社会的な問題は漫画にはなじまないと思われがちだ。なぜなら漫画は基本的に読み流すもの。娯楽を提供するもので読者に深い思考を提供するものではない。だが、樹村はこの漫画という媒体を非常に上手に使っている。漫画独特のテンポの良さと親しみやすさ、わかりやすさを巧みに利用することで、読者をするすると社会問題の深淵へと連れ込んでいく。90年代にすでにこのような作品が出ていたことを私は知らなかった。本作は芸術やエンターテインメントと社会とのかかわりについて大きな問題提起をしているように思う。