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水田洋『「知の商人」たちのヨーロッパ近代史』(講談社学術文庫)

 

 グーテンベルクによる活版印刷技術の発明は、知識や文学を大衆に流布する技術の発明であり、その際知識を本の形で売る出版業者、「知の商人」たちを大量に生み出した。本書はそうした「知の商人」たちと知を売る学者や文化人などの近代史だ。「知の商人」は、一面では知識を大衆に流布するインフラを提供する者だが、他面では利潤を追求するために知識を利用している者でもある。

 本書は何か特定のテーゼを提示するものではなく、博覧強記の著者が自らの知識を連想で縦横無尽に結び付けていくその飛躍を楽しむ作品だと思う。これは学術書というよりは作品なのであり、読者は著者の「芸」を楽しむのである。著者は本書を書くにあたって非常に縦横無尽・自由自在に筆を運んでいる。この遊びの感覚こそが読む者に楽しみを与える。知識は楽しいのである。しかも知識がこのように飛躍を生みながら結合されていくのを見るのは楽しい。エッセイでも学術書でもない新たなジャンルの本を読んだ感じがする。