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牧野雅彦『ハンナ・アレント』(講談社現代新書)

 

 全体主義に対する思想的な抵抗の理論を唱えたハンナ・アレントの入門書。人間は行為によって無数の関係の網の目を作り出し、それが「共通世界」となる。共通世界は絶えず変化していくので、それを維持していくには行為の意味や意図を理解する「共通感覚」が必要である。だが、近代社会は他者から切り離され内面的にも解体された無数の人間を作り出した。互いに無関係・無関心の「大衆」は、よりどころがないため全体主義イデオロギーに容易に染まってしまう。全体主義に抗して「自由な運動」の空間を取り戻すには、「共通世界」を取り戻す必要がある。我々がともに見ている「事実」は確かに存在するという保証が「共通世界」のリアリティの基盤となり、全体主義の「虚構の世界」に抵抗する根拠となる。

 本書は短いながらも大変スリリングな思考が展開されており、読み応え抜群だった。今まであまり触れていなかったアレントだが、原典を読みたいと思った。全体主義はこの近代社会ではいつでも出現しうる。そのような危機感を常に抱いていないといけない。そして、全体主義に抗する世界観をきちんと持つということ。アレントは多くのことをその優れた思想により教えてくれそうだ。