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青木健太『タリバン台頭』(岩波新書)

 

 アフガニスタンの政権を担ったタリバンの多面性について解説している本。アメリカは9.11後、タリバンに対してアルカイダ関係者の引き渡しを求めたところ拒否されたため、アフガニスタンに侵攻した。アフガニスタン戦争後、アメリカの指導の下イスラーム共和国ができたが汚職がひどく、国民の不満が蓄積し、バイデン政権時にアメリカ兵が引き上げると、土着の政治勢力で、多様なイスラム思想を取り込み、アフガニスタン農村部の精神を継承するタリバンが政権を握った。だが、タリバンは女子の人権をないがしろにしたり、自爆攻撃による民間人の攻撃、イスラーム共和国の官僚の殺害など、暴力性もよく見える。

 本書はアフガニスタン現代史の一冊であるが、この混迷を極める事態に理解の道筋をつけるのは難しい。タリバンにしても非常に複雑な状況のもと、多面的な性格を備えたまま政権を掌握している。アフガニスタンの真の平和が訪れるのはまだまだ遠いのだろうか。外側からの押し付けでは解決しない問題であろう。