社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

働きすぎないために

 日本は「過労死」という国際的な言葉を生み出してしまった仕事ファーストの時代を通過した。仕事第一主義、家庭や自らの健康は二の次、そのことによって、家事育児を負担する女性に過大な負担を課し、子どもの健全な発育に父親が関与せず、とりあえず仕事さえやっていれば他はすべて免除されるみたいな悪しき風土を生み出した。

 最近今どきの若い世代の価値観をよく目にするようになった。今どきの若い世代は、フェミニズム運動の成果をある程度受け継いでいるし、ワークライフ・バランスを重視する。だから、「イクメン」という言葉が生まれたように、家事育児に大幅にコミットする男性が急増しているのである。

 小室淑恵などの著作を読むと、育児をすることが仕事の成果にも結び付くことが主張されている。それを実験データで示した本も読んだことがある。育児はリーダーシップや創造力などを育てるのである。それは仕事においても役立つのだ。

 つまりは、最近はやりの「ワークライフ・インテグレーション」というものをどんどん浸透させていく必要があるということを私は言いたいのである。旧来のワークライフ・バランスは、仕事と生活を分離したうえで調和をとろうとしていたが、ワークライフ・インテグレーションにおいては、仕事で得たスキルを家庭でも生かし、家庭で得たスキルを仕事でも生かすことを主張している。つまり、仕事と生活の相乗効果を期待しているのである。

 仕事だけやっていてはカタワの人間になってしまう。仕事や論理的コミュニケーションができても、家事育児その他生活全般、また共感的コミュニケーションができない。一昔前に話題になった孤立する老紳士はそのようにして生み出されてきたのだ。仕事だけやっていると、定年後に孤独になり地域のコミュニティにも入っていけない。そんな人間になってしまう。それは不幸だ。

 だから、まず手始めに年休をすべて消化することから始めよう。そして超勤を削減しよう。ゆとりのある心身であればかえって仕事の能率も上がるし、生活も充実するから幸福感も上がる。仕事しか居場所のない人間になってはならない。別の場所にも居場所をきちんと作る。それは趣味でもいいし地域のコミュニティでもいい。そのようにして自らの狭い世界から出ることで外部から刺激を受け視野は広がっていくだろう。

 そして、一番大事なことであるが、「みんなで幸せになろう」という基本ビジョンを決して忘れないこと。自分が不幸だから相手も不幸にしてやれ、あいつは気に入らないから足を引っ張ってやれ、排除してやれ、そういうくだらないことで分断や対立を生み出さないこと。そこから働き方の改革は始まる。みんなが幸せになるために、ワークライフ・インテグレーションを浸透させる必要があるのだ。