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湯澤規子『「おふくろの味」幻想』(光文社新書)

 おふくろの味は社会的に構成されたものにすぎないとする本。おふくろの味は、メディアや我々が作り出した幻想に過ぎないが、それが生み出された背景には、都市住民のトポフィリア(愛着のある場所)を作る必要性、ローカルナレッジ(地域の知)として郷土食に注目する動き、没場所性(どこに行っても同じ空間であること)へのカウンター・カルチャーとしての意味合いがあった。

 本書は、おふくろの味というものがあたかも過去から連綿と受け継がれてきたかのように思われている通念を覆し、それがいかに社会的に構成されてきたか分析している。と同時に、そもそも我々というものは固定した与えられた世界を生きているのではなく、自分自身が認知し描き出した変幻自在な世界を生きていることを主張している。味というものを社会学の方法論で分析した画期的な書物だ。