ジャコメッティは矢内原伊作という哲学者を自分の絵や彫刻のモデルとして数多く使った。宇佐見英治は、ジャコメッティとも矢内原伊作とも交流があった。この、芸術家と哲学者と詩人の出会いについて書かれたエッセイ集である。ジャコメッティは対象を正確に見ようとする人であり、実存主義の思想を持っていた。また、ジャコメッティは礼節正しく、それでありながら非常に精力的な人だった。
本書は、ジャコメッティに対する批評も載せているし、宇佐見と矢内原の貴重な対談も載せている。だが、一番はジャコメッティと矢内原伊作という芸術史上の人物と直接コンタクトを持っていた宇佐見による彼らとの交流録が大事だ。歴史的人物との生の出会いと付き合い、それを書き残していることが歴史的価値を持つ。ひとつ芸術史に詳しくなった気がする。