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速水健朗『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)

 ラーメンの日本史。大量生産・大量消費、総力戦体制の戦争、世界大戦後の食糧難、都市化、郊外化、マスメディア時代、情報化社会といった、20世紀前半の欧米の動向を日本は半世紀遅れて経験した。それをラーメンという観点からなぞっている本である。歴史とのつながりが一旦切断された現代、ラーメンが再び魅力ある日本の歴史や伝統を呼び起こそうとしている。ラーメンは国民食として、フェイク的ではあるが愛国の思想を呼び込んでくる。

 ラーメンは全く新しい日本の食文化である。それがいかに伝統的であるかのような様相を帯びてきて、ラーメンを食べることが日本国民であることの証明となってきたかについて歴史を丁寧にひも解いて論述しているスリリングな本である。ラーメンというものは微妙な立ち位置にある。本物の日本の伝統ではないが、新しくつくられた日本のよりどころなのである。だが、それを肯定的に評価することも可能だ。日本は自ら伝統を作り出したのだ。