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三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)

 日本の読書史と労働史を振り返り、働いていると本が読めなくなる理由に迫る。読書とはノイズ込みの知を得ることであり、情報とはノイズ抜きの知を得ることである。ノイズとは自分の外部の文脈であり、偶然性や驚きに満ちている。現代の私たちは、自分で自分を労働に追い立てる疲労社会に住んでおり、トータルワークを強いられている。そこから一歩身を引いて半身で働くこと。そのことによって、豊饒なノイズを手に入れる余裕が生まれる。読書を可能にするのはその余裕である。

 読書史と労働史を丹念に読み解いているのはいいのだが、それが最終的な主張と直接結びついているわけではない。本書のタイトルへの答えは読書史と労働史の研究とは別個に与えられているような気がして、本としての一貫性はいまいちだとは感じたが、個々から得られる情報と、読書とインターネットの違いをノイズの有無で読み取ることは新鮮に感じた。フィルターバブルの中にいる我々にこそ、読書によるノイズが必要なのだ。