自律した近代的個人の能力主義といった幻想を打ち砕く本。個人に能力が備わっていて、それを評価・処遇の基準とするのが能力主義であるが、人を独立独歩した自立した個人とみたてるのには限界があり、本来人は皆で持ちつ持たれつ生きている。人間は有能になるためや自立するため、競争するために生きるのではなく、人と人とが組み合わさって助け合うようにして生きている。能力よりも関係性が重要である。一元的な正しさを求めるのではなく、一つの姿にとらわれず流れゆく組織と個人が織りなす「働くこと」を見直す必要がある。
最近、戸谷洋志の『生きることは頼ること』という本を読んだが、本書もそれと似た論調であり、結局は近代的個人という幻想を打ち砕くものだった。人間というものは互いに足りないものを補い合い支え合いながら生きていて、個人の能力などといったものは幻想にすぎない。そうではなく、個人は社会を構成する一つ一つの機能なのであり、それが上手に組み合わさることによって社会がうまく運営される。要は、それぞれに異なる個人をうまく組み合わせることが重要なのである。本書は労働の現場において、そのような主張をしている。大変面白かった。