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柴崎友香『あらゆることは今起こる』(医学書院)

 芥川賞作家の柴崎友香による発達障害体験エッセイ。突然自分だけが別の世界に移動してしまった感覚や、肝心なことを自分だけが聞いてなくて周りの状況がつかめないなどの体験。特に主張されているのが、ADHDの「今、ここに」注力するという特性と、ASDの「同じ状態が続く」という特性である。筆者はそれゆえに、「今、ここに」ありつつ、すでに起きたこともこれから起きることも同時にとらえ続ける。あらゆることは今起こるのである。

 作家の文章だけあって、とても読みやすく、しかも内容も面白い。発達障害は当事者からはこのように見えるのだというのがわかってとても参考になる。ただ、筆者にとって喘息もまた重要であり、いじめを受けた体験も重要である。それは発達障害事態とは直接関係ないのかもしれないが、作家の人格形成には大きな影響を与えている。発達障害だけではなく、自らの人格形成について書いている興味深いエッセイである。