黒人とはなんであるかについての哲学的考察。世界は「黒人」になろうとしている。かつて西洋近代が標榜した理性、自由、自我、平等、人権のような価値は、その裏側ではひどい暴力、犠牲、災厄を伴っていた。黒人が被ったような奴隷制や植民地化は、資本主義の負の側面の象徴であり、今やだれもが黒人のように資本主義による収奪などの犠牲になりうる。この資本主義社会においては、誰もが「黒人」になりうるのである。
黒人という概念が含む負のスティグマは、この資本主義社会において普遍的になりつつあるという警世の書である。一方で、黒人の創造力や身体的能力の強調もあり、世界が黒人化することには別の側面もあることを示唆しているようにも思える。黒人の生み出した音楽やダンス、黒人の生命力は、逆の意味で世界に普遍化しうるのである。とにかく、重厚で緻密に展開された思考は読みごたえがあり面白かった。