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冨原眞弓『シモーヌ・ヴェイユ』(岩波現代文庫)

 シモーヌ・ヴェイユ研究の決定版。ヴェイユは、前半生においては、自分自身の思考にしか信を置かないデカルトと同様の立場をとり、知的冒険の旅に出た。だが、工場と戦場の経験は、人間の生存の第一要件が抑圧であり、社会的失墜と心理的屈辱に抑圧の本質があることを知った。社会人としてのヴェイユは、不幸について考察し、抑圧と自由との葛藤、不幸と注意、根扱ぎと憐みの関係性に関心を持つ。一方で、言語や宗教や歴史を分かち合う人間的環境には肯定的な考えを持つようになる。

 シモーヌ・ヴェイユは、ユダヤ人であり、世界大戦の激動の時期に波乱に満ちた生涯を送った。その鋭敏な感受性と批評意識、行動力によって、現場に赴きながら思索を深めていった。現代社会の矛盾について極めて鋭敏な意識を持っており、それについて思考を深め、豊かな著作を残した。これだけドラマティックに生きた思想家というのも珍しい。そしてこれだけ己の信念を貫こうとする思想家も珍しい。極めて政治的な環境の中、様々に目配りしつつ己の立ち位置を決めていく様は頼もしい。