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将基面貴巳『反逆罪』(岩波新書)

 反逆罪の歴史を辿ることで近代国家成立の通常とは異なる側面を明らかにする本。支配権力にとって、その基盤を揺るがしかねない政治的危機を抑圧する必要があったため、近代国家がその権力を盤石とするために反逆罪が用いられた。そして、反逆罪は法的カテゴリーにとどまらず、政治的レトリックとしても用いられた。さらに、近代国家はかつて古代ローマや中世ローマ教会が占有した神聖不可侵性(マイェスタス)を奪取することで成功を収めた。

 反逆罪の二類型がわかりやすかった。マイェスタス(神聖不可侵性)毀損罪としての反逆罪と、領主と臣民の契約関係を毀損するものとしての反逆罪。その二類型を軸として、反逆罪の歴史をダイナミックに展望する好著だ。このような観点から近代国家の成立の仕方を眺めるのはとてもスリリングであり、様々な学びや発見のある優れた本だと思う。通常とは異なる視点から見ると歴史といったものは全く違った相貌を見せるものだ。